学校法人久山学園 青梅幼稚園

自ら遊びを創造し、生活をつくる場

今回は80年近い歴史を持つ青梅幼稚園の建て替え工事をご紹介します。

園長の横山牧人さんは東村山在住。施工を担った相羽建設の拠点『あいばこ』で開催された演奏会でギターを演奏するなど、地域での繋がりもお持ちでした。
横山園長は子どもたちと保育教諭の皆さんが園づくりの途中に関われるよう、上棟式で合唱とギターを演奏したり、外壁のスギ板の塗装ワークショップを企画。
この企画は青梅幼稚園と相羽建設の協働だからこそ実現した取り組みでした。

「工事現場が仮園舎へ向かうシャトルバスの集合場所だったので、職人さんの作業の様子や完成に近づいていく様子を間近で見ることができました。」と横山園長。

近くで見守りながら建築の過程を共有できたことも印象的だったといいます。

歴史や教育理念を大切にしたプラン

設計は総合建築計画の石井かやさんが担当。建て替え前の園舎の設計に携わったお父様から、設計事務所と想いを継承し、歴史を大切にしながら計画を進めたと言います。

「特徴のある北側の外観は青梅幼稚園の教育理念である『一人ひとりの個性を尊重する少人数保育』・『青梅の森と共に育つ自然保育』の2つを感じていただけるように考えました。長さの違う多摩産のスギ板と板の端部のいろんな色は、個性の違う子どもたちを表現し、楽しくのびのびと育ってほしいという想いを表しています」と石井さん。

雨ざらしの外壁に木を張ることはメンテナンスや老朽化の観点から実現が難しい中、横山園長先生をはじめとする園の共感・理解があり、想いのこもった素敵な園舎が完成しました。

横山先生が園長になったのは8年ほど前。新たに保育方針に加えたのが『山遊び』・『自然保育』です。
地域の方から譲り受けた山『まあがさすの森』は子どもたちにとってはホームグラウンドのような存在。
山へ散歩に行くと、足元の植物や生き物に夢中になり、なかなか進むことができないほどたくさんの発見があるのだと言います。

「子どもたちが自然の中で遊びを見つけていく中で、道具となるのが 『木』です。新しい園舎には木をたくさん使っていただくようにお願いしました」と横山園長先生。
スギ板の腰壁やあまがさすの森の木を使ったラックなど、子どもたちが馴染み深い木の風合いを随所に感じられるところも魅力です。

廊下や1階の保育室に飾られた草木染の天蓋は、卒園生のお母さんたちからのプレゼント。
以前の園舎の庭にあった木を使って布を染め、張り合わせたものなのだとか。

各保育室の前に掲示された室名板も見どころ。
クラスの名前は『きじ』・『かわせみ』・『おおるり』など、青梅にゆかりのある鳥の名前になっています。
室名板の木は前の園舎の床材を再利用したもの。旧園舎の思い出も継承しながら、新たな印象へ生まれ変わらせています。

子どもたちの発見力や考える力をサポートする建築

「生まれ変わった園舎では、広い園庭で水や土・木・植物にふれ、生活の場でもあり遊びの場でもあるこの空間をのびのびと使って欲しいです」とお話しいただいたのは、副園長の和田千香子先生。勤続約30年のベテランです。
新園舎になって大きく変わったところを伺うと『給食』を挙げてくださいました。

実は、園舎の建て替えの話が持ち上がったのは調理室を園内につくりたいという横山園長先生の声がきっかけ。
調理室でつくられた給食は子どもたちや先生からも大好評なのだと言います。

「以前は給食センターから届いたごはんを残す子もいました。先生たちと話し合う中で、温かいごはんと、園の畑で採れた野菜を使うなど、子どもたちが自分の手を加えたものは比較的残さず食べることが分かりました。食べることは生きること。自然農法・無農薬の野菜を育てている地域の農家さんから野菜を取り寄せていて、素材そのものの味がして美味しいです」と和田先生。
給食で使っている木の器は『森と市庭』、陶器のものは障害者支援施設『友愛学園』で製作されたものなのだそう。
こだわりの器が、野菜や果物の素材の彩りを際立たせています。

新卒4年目の清水未優先生にも新園舎の印象を伺いました。

「園舎の印象は、いい意味で変わっていないです。子どもたちの過ごし方も大きく変わっておらず、この変化がストレスになっていなくて安心しました」と清水先生。
園舎や園庭で過ごす子どもたちの様子を見ると思い思いに遊びを見つけ、先生たちや友だち同士で和気藹々と楽しんでいる様子が印象的でした。

「子どもが遊びを見つける力は、森で育まれていると思います。森は遊びが豊富なんです。自分で気づいたことが一番身になるので、遊びの中からたくさんの気づきを得て欲しいです」と清水先生。

この園舎が、森や遊びの中で育まれる、子どもたちの発見力や考える力をサポートする建築になることを願っています。

設計
株式会社総合建築計画
施工会社
相羽建設株式会社
敷地面積
782.55㎡(236.72坪)
延床面積
653.13㎡(197.57坪)
監督
早川真・荒生滉斗
大工
秋山和雄・菊池義二・中山和弘・長井駿・志村飛鳥・田邉琢磨
写真
西川公朗(一部相羽建設)
編集
中村桃子