幹線道路から離れるにつれ、道は少しずつ細く曲がりくねり、家と家の間から時折畑が現れる。まさに「郊外」という言葉がしっくりくる東村山市野口町。
長閑な小道が重なる辻にひときわ緑濃く、活気に満ちた角が二つ。ひとつが大屋根のかかった【空飛ぶ三輪車・野口保育所】。
そしてその向かい側の三角屋根の細長い園舎が今回ご紹介する【空飛ぶ三輪車・野口第2保育所】です。
幹線道路から離れるにつれ、道は少しずつ細く曲がりくねり、家と家の間から時折畑が現れる。まさに「郊外」という言葉がしっくりくる東村山市野口町。
長閑な小道が重なる辻にひときわ緑濃く、活気に満ちた角が二つ。ひとつが大屋根のかかった【空飛ぶ三輪車・野口保育所】。
そしてその向かい側の三角屋根の細長い園舎が今回ご紹介する【空飛ぶ三輪車・野口第2保育所】です。
元々あった古い園舎の建て替え計画。
設計にあたった市川設計・市川淳さんは、「野口保育所は動物小屋、豊かな植栽、田んぼがある園庭が辻に面していて、地域にとってランドマーク的な存在です。その役割を意識して第2保育所は非対称の切妻屋根のシンプルな稜線としました。建替え前と園庭の位置・大きさは変えず、園庭同士が連続する形に。賑わいが外に溢れ出す、この辻の昔からの風景が残るように」と意図を語ってくださいました。
この地域に開設して今年で43年。空飛ぶ三輪車の新たな保育の場と「自然と思い切り遊ぶ」豊かな保育の魅力を取材させていただきました。
「新しい園舎に入った瞬間に思ったのは『懐かしい』でした」と笑顔で語るのは、自身も一期生である保育者の横須賀麻衣さん。外観こそ様変わりしましたが、出入り口からすっと視線が奥に抜ける風景は以前と変わらず【新しいけれど、懐かしい】。
「私と空飛ぶ三輪車との出会いは旧園舎の素敵なお庭でした。その旧園舎を一部【復元した】ようなイメージです」とおっしゃるのは設計の市川さん。市川設計と相羽建設の協働で空飛ぶ三輪車の建て替えを行うのは2019年竣工の秋津保育所に続いて2軒目です。
「園庭に面したガラスの出入り口、調理室の位置、動線など旧園舎に近い箇所を平面計画に取り入れて、旧園舎の面影を感じられるようにしました」と、園が昔から大切にしているもの、意図を汲み取り、丁寧に計画に落としこみました。
木造2階建の園舎は1階は3〜5歳組、2階に0〜2歳組の保育室という構成。
1階は廊下も含めて空間を大きく使うこともできれば、4枚の大きな引込み戸で仕切ったり、多様な保育運営に対応し、成長と共に多様化する年上組の遊びの発想を広げます。
2階は事務所スペースの他は、空間を3つに大きく分けています。
自由遊びの際は全ての建具を引き込み、3部屋をいったりきたりして目一杯体を動かす事もできます。
実際に保育を始めての感想を保育者の八木田さんに伺うと、「自然光がたくさん入る環境が贅沢だなと日々感じます。隣家のお庭の木々の眺めもとても気持ちがいいんです。天気のいい日はテラスで二度寝する子もいたりして」と笑顔で答えてくださいました。
たっぷりの日差しと自然素材の温もりで伸び伸びと過ごせる環境が魅力的です。
色とりどりの草花や木々が茂る園庭、園児・卒園児の絵や手紙が沢山飾られた壁、庭や畑でとってきた草花や豆がかけられた柱…
開園からまだ半年も経っていないとは思えぬほど空間の隅々まで三輪車色に彩られた園内。
空間への想い・コンセプトについて、「三輪車にとって保育所は帰ってくる場所。外でめいっぱい遊んで、帰ってきて、よく食べて、よく眠る、『大きなお家』のようなイメージです」と横須賀さん。
新園舎の住宅と同じようなスケール感や素材は自然と家にいるような安心感を与えてくれます。
また1階のガラス張りの調理室からは給食のいい匂いが。
作っている姿がみえることで、食事への関心が一層高まります。
作り込みすぎない空間の使い方も、整然としすぎない家庭的な雰囲気も、この日々過ごす『大きなお家』が気張らない、落ち着く居場所となるように、そんな優しい想いが込められています。
【自然に溶け込んで思い切り遊ぶ保育】という方針を掲げ、野外保育を大切にしている空飛ぶ三輪車。
日頃から飯能の山や川、所沢や小金井の公園まで足を伸ばしているそうで、私達が想像するところの「遠足」に毎日行っているような、なんとも充実した日々の様子が想像できます。
また方針には【保育所はいつ、誰が遊びにきてもいい】という一節も。
施設長の室橋さんも「園庭に面したガラスの出入り口は登園の様子はもちろん、卒園児の通学している姿や、地域の方の様子がよく見えるんです。気づいたら手を振ってくれたり、少しおしゃべりしたり。これからこの園舎ももっと気軽に立ち寄ってみんなで交流ができる場所にできたらいいな思っています」と今後の展望をお話くださいました。
自然の中で目一杯遊び、地域と触れ合う中であたたかい人間関係を育む。小さな体に大事なものをいっぱい詰め込める空飛ぶ三輪車の保育です。
今回の建替え工事では、地鎮祭や上棟式に皆で参加したり、できるだけ工事中の様子を見てもらうなど園舎ができるまでの過程を皆で共有しました。
「大工さんや建具屋さんなどの職人さんと使い手が関わることができるのは、手仕事による木造建築ならでは良さ。彼らの想いが空間やディティールを介して伝わり、愛着につながると思います」と市川さん。
職人の想いがこもった手仕事に加え、長く大切に使ってきた机、椅子、おもちゃ達に囲まれ、どこか懐かしく、優しい空気に包まれた空飛ぶ三輪車の保育所。
これからまた、子どもの柔軟な発想とそれを許容する大らかな大人達によってこの空間がどのように使いこなされていくのか、私たちもとても楽しみです。
市川設計|市川 淳さん
相羽建設との協働で木造の保育施設・福祉施設の設計を多く手がけていらっしゃいます。
「空飛ぶ三輪車」さんの新園舎の上棟の現場ツアー動画も是非ご覧ください!